君に愛されて痛かった 9巻は、越智と決裂した寛をかなえが支えようとするのに、その気持ちがうまく届かず、むしろ傷を広げてしまう巻でした。8巻で越智が強く割り込んできた流れを受けて、今度は寛の側が崩れ、その横でかなえもまたずれていく。大きな事件で押す巻ではないのに、会話の噛み合わなさがずっと苦しく残ります。
あらすじ
不安で死にたくなる夜もあるけれど、大好きな寛君がいるから大丈夫。自らにそう言い聞かせながら恋人の寛に心の救いを求めるかなえ。だがそんな2人の関係を許せない寛のチームメイト・越智がかなえの前に現れて―――。
アマゾンから抜粋
9巻は、その関係を取り巻く空気の悪さが前へ出る巻でした。とくに大きいのは、越智との決裂を引きずった寛のしんどさです。かなえは恋人として寛を支えたいのに、その支え方がうまく噛み合わない。ここがかなりきつくて、近くにいる二人の気持ちが少しずつ離れていく感じがありました。
越智と決裂した寛がかなりしんどい
9巻では、越智との関係がこじれたあとの寛がかなり重たいです。野球を続けてきた相手との決裂なので、ただ友達と気まずくなっただけでは済みません。寛の中ではかなり大きい出来事なのに、かなえはその痛みをうまく同じ温度で受け止めきれない。そのズレが最初から最後まで残ります。

寛はかなえと一緒にいても、そこではうまく息ができていない感じがあります。かなえも悪気があって動いているわけではありません。でも相手を励まそうとするほど、かえって違う場所を触ってしまう。その気まずさがかなり生々しかったです。
かなえは励まそうとして逆に傷つけてしまう
かなえが寛を励まそうとして逆に傷つけてしまう場面は、9巻のかなり苦しいところでした。好きだから支えたい、そばにいたいという気持ちは本物なのに、その向け方がうまく噛み合わない。かなえは相手の傷を前にして、自分も一緒に揺れてしまうので、落ち着いて寄り添うことができません。

そのため、かなえが優しくしようとした場面ほどつらいです。寛のために何かしたいのに、その何かが相手を楽にはしない。むしろ寛のしんどさと、かなえ自身の不安をいっしょに広げてしまう。この作品の恋愛が救いとして機能しきらない感じが、9巻ではかなりはっきり出ていました。
静かな巻なのに空気はかなり重い
9巻は、派手な展開が次々に来る巻ではありません。大きく場面をひっくり返す巻ではないぶん、その静けさが逆に不気味です。ただ、その静けさが安心につながるわけでもありません。むしろ会話の食い違いと、周囲の視線の嫌さがじわじわ残るので、読後感はかなり重いです。

とくに翌日の友人たちとの会話の怖さはかなり嫌でした。女性同士だからという話ではなく、人と人が対等でいることの難しさがそのまま出ています。かなえは寛とも友人たちとも少しずつ齟齬を起こしていて、どこにいても安心しきれない。その不安定さが静かな場面ほど目立つ巻でした。
友人たちとの会話でもかなえは安心できない
9巻でかなり嫌だったのは、恋人同士の場面だけではなく、友人たちとの会話でもかなえが安心できていないことです。何気ないやり取りの中でも、少しずつ立場の差や空気の強さがにじむので、かなえはどこにいても気を張っています。寛との関係だけが不安定なのではなく、日常全体がかなえにとって落ち着ける場所になっていません。

そこがやるせないのは、かなえ自身が誰かを強く攻撃したいのではなく、まず自分が見捨てられたくないほうへ動いているからです。寛にも友人たちにも、相手をちゃんと見て向き合う前に、自分が外へ押し出されないかを確かめてしまう。その不安定さが、静かな場面ほどはっきり出ていました。
9巻は嵐の前の静けさみたいな苦さが残る
9巻は、越智との衝突が終わったあとに、その余波がじわじわ広がる巻でした。かなえは寛を支えきれず、寛もかなえの気持ちを受け止めきれず、まわりとの会話でも安心できない。全部が少しずつ噛み合わないので、次に大きく崩れる前の嫌な静けさが残ります。
まとめると、君に愛されて痛かった 9巻は、越智と決裂した寛の傷と、かなえの支えきれなさが前に出る巻でした。比較的静かなのに、読んでいて休まらない。かなえと寛のズレ、友人たちとの齟齬、嫉妬のにじみ方まで含めて、静かに苦しい巻でした。読後もかなり重さが残ります。
