ドラえもんのエピソードには、日常の小さな出来事をユーモラスに描いた話から、大きなテーマ性を感じさせる名作まで幅広い魅力があります。その中でも、ひときわ強烈な印象を残すのが、原作5巻に収録されたドラえもんだらけの回です。読者の間でも記憶に残りやすいエピソードとして語られ続けており、思わず笑ってしまうカオスな展開が特徴的です。
この回の面白さは、突飛な状況設定だけではありません。登場人物たちのリアクション、テンポの良い展開、そしてどこか不思議な余韻を残す終わり方など、短い作品の中でさまざまな魅力が凝縮されています。原作らしい勢いのあるコマ運びがそのまま読者の記憶に刺さる作品と言えるでしょう。
さらに、大山版アニメで触れたことがある人にとっては、映像としての印象も強いはずです。原作とのトーンの違いを比較することで、同じエピソードでも受ける印象の差を味わえる点も興味深いところです。
この記事では、このドラえもんだらけの回がなぜ多くの読者にとって忘れがたい作品となっているのかを、基本情報やアニメ版との違い、特徴的な盛り上がりどころなどを交えながら紹介していきます。
ドラえもんだらけ回とはどんな話か(基本情報とあらすじ)
ドラえもんだらけの回は、てんとう虫コミックス第五巻に収録されている原作エピソードで、のび太がドラえもんに大量の宿題を押しつけるところから始まります。のび太は山ほどのドラ焼きを差し出しながら、いつも助けてもらっているお礼だと言ってドラえもんを持ち上げ、頼まれたら断れない性分を突いて宿題処理を任せます。ところが、部屋を出たのび太はそのまま寝てしまい、ドラえもんは文句を言いながらも宿題を引き受けることになります。

ドラえもんだらけのエピソードより
しかし、夜ののび太の部屋は妙に騒がしく、寝ているのび太のもとへもう一人ののび太が駆け込んでくるなど不可解な出来事が続きます。翌朝、のび太が自室に戻ってみると部屋は荒れ放題で、宿題は終わっているもののドラえもんは傷だらけ。強盗かと慌てるのび太に対し、ドラえもんは自分でやったとだけ告げて眠り込んでしまいます。
納得がいかないのび太は、タイムマシンで昨夜に戻り、押し入れから様子を観察することにします。そこでは、宿題の量に悲鳴を上げるドラえもんが、人手を増やす妙案を思いついていました。未来の自分をタイムマシンで呼び出して手伝わせるという方法です。ドラえもんは二時間後、四時間後、六時間後、八時間後の自分を連れてきますが、どのドラえもんも傷だらけで、後の時間帯のドラえもんほど怒り狂い、スパナを持って追い回すほど協力的ではありません。それでも五人で協力して宿題を終えることに成功します。
ところが、ドラえもんが上から目線で解散を告げた途端、未来の自分たちからのお返しとしてボコボコにされてしまいます。翌朝の傷だらけの理由はこれでした。しかし物語はここで終わりません。二時間後の自分を呼び出したということは、現在の自分が二時間前へ行って宿題を手伝う必要が生じるという、避けられないタイムパラドックスが発生していたのです。

ドラえもんだらけのエピソードより
そのため、熟睡中のドラえもんは二時間おきに過去の自分に呼び出され、四時間後、六時間後、八時間後と合計四回宿題を手伝いに行く羽目になります。眠気と疲れが限界に達したドラえもんは押し入れに隠れて回避しようとしますが、のび太の裏切りによって結局捕まってしまい、怒りが爆発したドラえもんは鬼の形相でのび太を追い回す事態になります。そこへさらに八時間前のドラえもんが迎えに来て連行していくという混沌とした展開が続きます。
すべてを見届けたのび太は前夜の自分を反省し、ドラえもんに謝罪として再びドラ焼きの山を差し出します。しかしドラえもんは、また何か押しつけられると誤解したのか、ドラ焼きを怖がって逃げ回るという落ちがついて物語は終わります。
一度見たら忘れられないカオス展開の魅力
ドラえもんだらけの回が強烈に記憶へ刻み込まれる最大の理由は、物語全体に漂う混沌と勢いです。最初はのび太が宿題を押しつけるというよくある入り口から始まりますが、物語が進むにつれ、未来のドラえもんたちが続々と登場し、状況が加速度的に崩れていく構造がとても特徴的です。未来の自分を連れてくるという発想は一見便利な方法のように見えますが、それが見事に裏目へ転じ、登場するドラえもんの数が増えるほど状況が悪化していく流れは痛快であり、読者に強い印象を残します。
特に、後の時間帯のドラえもんほど疲労と怒りが蓄積しているため、連れてこられた瞬間に逃げ出そうとしたり、スパナを持って追い回したりと、展開そのものが予測不能な方向へ転がっていきます。未来の自分たちが協力どころか暴走していく姿は、まさにこの回が混沌と呼ばれる所以です。複数のドラえもんが部屋の中で怒号を交わしながら駆け回る光景は、原作のテンポと相まって実に強烈です。
さらに、このエピソードを象徴するやり取りとして、怒りに支配されたドラえもんがのび太を追い詰める場面があります。眠気と疲労、裏切られた怒りが頂点に達し、机の引き出しから飛び出してきたドラえもんが叫びながら迫るシーンは、明らかに普段の彼ではなく、作品全体の空気が一変する瞬間でもあります。のび太が悲鳴を上げる中、別の時間のドラえもんが迎えに来て状況を引き戻すという展開も、この回特有のテンポ感を生み出しています。

ドラえもん第五巻収録
ドラえもんだらけのエピソードより
また、前夜の出来事が積み重なっていく仕組みそのものも印象的です。宿題を終わらせるために未来の自分に頼った結果として、今度は自分が過去へ行く義務が生じるという循環が、ドラえもんの疲弊に拍車をかけます。この仕組みが読者にとって理解しやすく、かつ避けられない悲劇として描かれているため、読み終えた後に独特の余韻を残します。終始混乱が続きながらも、理屈としては成立してしまう構造が、この回を語り継がれる理由になっています。

ドラえもんだらけのエピソードより
物語の最後に描かれるオチも印象的で、のび太が謝罪のつもりで差し出したドラ焼きから逃げ回るドラえもんの姿は、冒頭の場面から見事に反転した構図です。ここまでの騒動を思い返せば、ドラえもんが警戒するのも無理はなく、この静かな余韻とコミカルさが絶妙な締めとして作用しています。
まとめ
ドラえもんだらけの回は、単なるギャグエピソードに見えて、読み進めるほど構造の巧みさとテンポの良さが際立つ作品です。物語はのび太が宿題を押しつけるという日常的な出来事から始まりますが、ドラえもんが未来の自分を頼るという選択をした瞬間から状況が急転し、収拾のつかない混乱へと突き進んでいきます。この急加速する展開が読者の印象に深く残り、まさに一度読んだら忘れられないエピソードとなっています。
未来のドラえもんたちが次々現れ、疲労と怒りを蓄積しながら暴走していく姿は、原作特有の勢いと相まって強烈なインパクトを生み出します。また、タイムパラドックスによって複数の時間帯のドラえもんが同時に存在し、それぞれが宿題を巡って異なる役割を担う構図は、短い話の中に緊張と笑いをバランスよく詰め込む仕掛けとして機能しています。読者が混乱を楽しめるよう計算された構造こそ、この回が語り継がれる大きな理由です。
のび太の行動や裏切りに怒りを爆発させるドラえもんの描写も、このエピソードならではの魅力です。普段の穏やかな姿からは想像できないテンションで追い回すシーンは、混沌とした展開の象徴とも言える瞬間であり、読み手の記憶に残りやすい表現になっています。最終的にドラ焼きすら怖がって逃げるオチも含めて、物語全体が強烈な余韻を残す構造になっています。
原作を読んだことがある人にとってはもちろん、改めて読み返すことで新しい発見がある作品です。初めて触れる読者にとっても短いながら満足度が高く、シンプルな設定の中に詰め込まれた混沌と勢いを楽しめる回になっています。ドラえもんだらけの回は、時を越えて多くの読者に語り継がれてきた理由がよくわかる、印象深いエピソードだと言えるでしょう。

