氷の城壁を読み進める中で、五十嵐 翼という人物に対して気になった読者は多いと思います。中学時代の回想では、小雪が強く苦手意識を持っている男子として何度も登場しました。そのため物語序盤では、トラウマの原因となった嫌な人物という印象が自然と形作られていきます。
とくに小雪の視点で描かれる過去の出来事は、五十嵐の言動をより強く、より否定的に見せています。言葉の選び方や距離の詰め方は絶妙に配慮に欠けており、当時の小雪にとっては受け止めきれないものだったことが伝わってきます。その結果、彼の存在は小雪の中で長く引きずるトラウマとして残ることになります。
一方で、物語が進むにつれて、五十嵐 翼というキャラクターの見え方は少しずつ揺らいでいきます。中学時代の印象だけでは説明しきれない場面や言動が重なり、読者の受け取り方にも変化が生まれていきます。本記事では、小雪のトラウマと結びついた五十嵐 翼の姿を振り返りながら、どんなキャラとして描かれていたのかを整理していきます。
氷の城壁:中学時代の回想での五十嵐 翼
五十嵐 翼は、物語序盤から中学時代の回想にたびたび登場します。頻繁に小雪に話しかける男子として描かれ、軽口ややや配慮に欠けた言い回しが続き、小雪が明確に苦手意識を持っていたことも作中で示されています。

小雪にとっては当時の家庭環境、部活の状況も重なり、些細なやり取りであっても強く心に残る状況でした。そのため、五十嵐の言動は小雪のトラウマと結びついた形で記憶されることになります。
また、雨宮 湊との会話の中で五十嵐の名前が出た際、小雪が明らかに動揺する場面も描かれています。氷川という名字を出しても通じなかった理由が後に明かされることで、当時の出来事が現在にも影を落としていることが分かります。小雪が無意識に避けようとする反応そのものが、過去の関係性の重さを物語っています。
この段階では、五十嵐 翼は小雪にとって過去の傷と直結した存在として描かれており、好意的に受け取れる要素はほとんどありません。読者にとっても、嫌な人物という第一印象が自然に形成される流れになっています。
氷の城壁:五十嵐は実は中学時代の小雪の彼氏
中学時代の回想が読み進められる中で、五十嵐 翼と小雪が当時交際していたという事実が明かされます。この情報は、序盤の印象を大きく揺さぶる要素として描かれています。単なる同級生やからかいの対象ではなく、二人の関係は恋人同士という立場にあったことになります。
ただし、その交際は小雪にとって前向きな感情から始まったものではありませんでした。小雪が五十嵐と付き合った理由は、自分をいじめていた熱川 真夏が五十嵐に興味を持っていたことへの対抗意識と、自身がこれ以上標的にならないための防御的な選択として描かれています。恋愛感情はなまったくありません。

一方で、五十嵐側はその温度差に気づいていなかった様子も描かれています。自分にとっての普通の距離感や言動を、小雪も同じように受け取っていると思い込んでおり、結果として二人の関係は噛み合わないまま進んでいきます。

このすれ違いが積み重なり、交際は長く続かずに終わることになります。
この交際の事実を踏まえることで、中学時代のからかいの描写は、単純ないじめや悪意だけでは整理できないものとして見えてきます。同時に、小雪にとっては逃げ場のない関係であったことも強調されており、五十嵐 翼という人物が小雪のトラウマと強く結びついていった理由が、より具体的に示されています。
氷の城壁:小雪との再会
物語の中で小雪は偶然五十嵐 翼と再会します。中学時代の記憶が強く残っている相手との再会でありながら、その場面は過去の回想とは異なる空気で描かれています。五十嵐の口調は相変わらず荒く、言葉遣いも決して丁寧とは言えませんが、小雪は以前のように一方的に傷つくことはありません。

会話の中で、小雪は五十嵐の言葉に普通に言い返せている自分に気づきます。かつてはすべてが重くのしかかっていた言動も、今では受け流せるものになっており、その変化は小雪自身の成長として描かれています。当時は耐えきれなかったやり取りが、現在では対等な会話として成立している点が印象的です。

やがて二人は本音を交わし、率直な言葉をぶつけ合います。そのやり取りを経て、小雪は五十嵐と並んで歩ける状態になります。この場面で描かれる、呪いが解ける音がしたという表現は、小雪の受け止め方が変化したことを強く示しています。

まとめ
氷の城壁における五十嵐 翼は、明確に小雪が嫌い苦手意識を持っている男子でした。中学時代の回想が繰り返されることで、その言動は小雪のトラウマと強く結びつき、問題のあるキャラクターと見えてしまいます。
しかし物語が進むにつれ、五十嵐と小雪が当時交際していたという事実が明かされます。その交際は恋愛感情によるものではなく、小雪が自分を守るために選んだ関係であり、二人の間には大きな温度差がありました。五十嵐は自分の距離感を当然のものとして接していましたが、それが小雪にとっては受け止めきれないものだったことも、作中で丁寧に描かれています。
再会の場面では、五十嵐自身が大きく変化したというよりも、小雪の受け止め方が変わったことが強調されます。かつては傷として残っていた言動に対し、今は言い返し、受け流せる自分がいるという実感が、小雪の中で整理されていきます。呪いが解ける音がしたという表現は、その変化を象徴する印象的な場面でした。

